
ぷつぷつと、窓をこまかに叩く音で目が覚めた。雨だった。苦手な季節がやってきてしまった。
梅雨がきらいだ。今年は多分、特に。
人懐っこさを微塵も感じさせることができない自分だが、人に会えない日が長く続けば、ああやっぱり会うことで救われていたんだなと思わされた。
じゃあ仮に、いま自分が家族と住んでいたら?パートナーがいて、いつでもそばにいたら?きっとそれはそれでウンザリしたり、ああ一人になりたいと思ったりもしただろうか。
ないものねだりだなと布団にくるまっている間にも、雨音は強くなる。一人だなあ、と思う。
「孤独」という言葉には、最近特に蓋をして生きている。
その存在を認めてしまうと、たちまち引きずり込まれて、かんたんに谷底に落ちてしまうような気がするからだ。
自分よりも孤独な人はいる、と思うことで、何かを繋ぎ止めている。
とはいえ、どの漫画でも孤独を愛するキャラクターは格好良いと相場が決まっているものだ。
それは、英語でいうところの「lonely」ではなく「solitude」だからだと、そういえば何かで聞いたことがあった。
どちらも日本語に訳すと「孤独」だが、前者には「寂しさ」、後者には「ひとりを選んでいる」といったニュアンスがあるらしい。
今の僕はどっちだろうか。子供の頃に好きだったスナフキンを思い出す。
ベッドからどろりと抜け出し、ポットを火にかけた。
お湯が湧くのを待つ間に、テーブルの片隅に放っておいた小さなパックを取り上げ、透明の蓋をめくると、「ぺり」という音が1 K の部屋でやけに響いた。
やばい、孤独。
と思ったのも束の間、開いたパックからあられせんべいの香りがふわりと迎えにきて、こんなことを考えている自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。
キザな気持ちが台無しだ。あーあ、せんべいに救われてやんの。
シュンシュンとポットが騒ぎ始めている。さて、コーヒーでも淹れますかね。
文=山越栞