-今日は『銀河の片隅で科学夜話』の著者である全卓樹先生に、星についてお話を伺います。夜空を見上げると浮かんで見える星は、一体何からできているのでしょうか。
前提として、私の専門は物理学なので、その視点から今日はお話ししますね。
単純に言うと、星は水素からできています。水素が固まって燃えているから光を放っているんですね。
ただ「燃えている」というのは我々がイメージする「火」ではなくて、核爆発が起きているんです。
-核爆発ですか。
水素の真ん中にある原子核同士がくっついて、もう少し大きなヘリウムになり、さらにはもっと大きい炭素、窒素、酸素になっていきます。
大きくなると安定し、エネルギー差ができ、そのエネルギーが外に出ると、光になるんですよ。つまり水爆の原理です。
太陽が燃えている仕組みも同様で、太陽の場合は全体で水爆を起こしているから、あんなに眩しい光を放っているんです。
それが分かったのは100年ぐらい前で、そんなに昔のことではないんですね。
-ええ!結構最近のことなんですね。
そうなんですよ。太陽は人間が生まれるずっとずっと前から存在していますが、なぜ燃えているのかその原理が分からなかった。
200年ほど前の科学書を読んでも、当時の人々は我々が火を燃やすように、太陽が燃えていると思っていたんです。
だけど、計算が合わないんですね。太陽の大きさから、このように燃えていたら1万年ほどで燃え尽きてしまうはずだ、と。
それから水爆の原理が分かってきた100年くらい前に、太陽が燃えている仕組みをアメリカのベーテという人とお弟子さん達が発見しました。
-なるほど。てっきり炎のように燃えているのかと思っていました……!
星のなりたちは理解できたのですが、どのように生まれて消滅するのでしょうか?
星の元である宇宙に漂っている水素は、粗密があると、重力でお互いを引きつけます。すると、もっと重くなってさらに引きつけるんですね。
そして密な部分にどんどん水素が集まり、重力で押されていくうちに熱くなって燃え出します。
本来は重力でつぶれようとする力と、燃えていて広がろうとする力がバランスをとって大きさを保っているのですが、最後はだいたい燃え尽きてしまいます。つまり水素がなくなってヘリウムだけになり、重力に負けて縮んでしまうんですね。
終いには硬い原子核同士がぶつかって大爆発を起こします。
このように星が死んだ時に爆発すると、真ん中のものは潰れてブラックホールになります。
それで、宇宙に残りの物質が撒き散らされるんですよね。
実は、今から約140億年前に宇宙ができた頃には明るくて青い「第一世代の星」があったのですが、それらはみんな死んでしまったんです。
その最初にできた星たちが爆発した際に散っていった物質は、今も宇宙にばらばらと転がっています。
そうして漂っているうちに、また星ができる。
だから今燃えている星は、第一世代の物質からできた「第二世代」なんです。太陽も第二世代の星のひとつです。
-太陽の前に、今とは別の星が存在していたのですね。驚きました。
もっと驚くべきことに、実は我々のもとを辿ると、星屑なんですよ。
-え!私たちが星ですか?!
はい。45億年前、太陽の周りにあるガスが平たい円盤になっていて、太陽がゆっくり固まって燃え始めると雲の円盤ができ、中に粗密ができて固まっていきました。それが後に地球になり木星になっていったんです。
我々は地球を太陽の子どものように思うかもしれませんが、実は太陽とほぼ同時期にできたんですね。
元をたどると、第一世代の星たちの燃えかすなので、酸素、炭素、窒素できた我々の体はも同様に、第一世代の星屑が元になってできているんですよ。
-自分が星屑でできているなんて考えたこともなかったです!今日1番の驚きでした。
宇宙のスケールから星について知ると、普段見上げることができる夜空の星への印象も違ったものになりそうです。とはいえ都心部だと星の数も少なく感じるのですが……。
都会だとまちの光がどうしても目に入って星がかすんでしまうんですよね。
私が在籍する高知工科大学がある土佐山田町は、街灯もあまりなく人口密度も高くないため、普段から天の川が見えるくらいですよ。
特に、海の先には光がないので見えやすいですね。だから、可能な限りまちの光が少ない場所で星を見るのがいいと思います。
もし周りに光があっても、穴のように少し窪んでいるところから見ると、周囲の光が視界に入りにくくなって、星を眺めやすくなります。
都会でも灯りを消したビル同士の隙間などからであれば、比較的よく見えると思いますよ。
-なるほど。ちょっとしたコツで見え方が変わるのですね。今年の夏は銀河へ想いを馳せながら、星を鑑賞してみようと思います!
もっと星について知りたい方は、こちらの「第2夜」で流星群についてお読みいただけます。
著書『銀河の片隅で科学夜話物理学者が語る、すばらしく不思議で美しい この世界の小さな驚異』(朝日出版社)
-profile-
全 卓樹 高知工科大学理論物理学教授
東京大学理学部物理学科卒、東京大学理学系大学院物理学専攻博士課程修了、博士論文は原子核反応の微視的理論についての研究。専攻は量子力学、数理物理学、社会物理学。