――今回は、趣味から作品を作り始めてプロの作家になられたcotoricotoriさんにお話をお伺いします。今の作家活動をするようになったきっかけは何だったのでしょうか?
高校生のときからイラストやデザインの仕事はしたいなと思っていたんですね。でも、美大を受験するための対策をしていたわけでもなく、高3で受験する大学を決める頃にはすでに間に合わなくて。どちらかというと体育会系だったので、大学はスポーツの分野で進学しました。
――スポーツ!これまたイラストとはまったく違う分野ですね。
そうなんです。ただ、今の活動のきっかけは大学時代にあるんですよ。当時のアルバイト先にショップカードがあり、それが消しゴムはんこで作られていたんです。その時初めて消しゴムはんこの存在を知って、一回試しにやってみたんですが、これがすごく難しくて……。道具までは全部揃えたものの、しばらくは触らなくなっていました。
でも時が経ち、パートの仕事をするようになって、一日の中に自由な時間が増えたんです。この時間を持て余してしまうのももったいないなと思ったとき、ふと消しゴムはんこの存在を思い出して、道具を引っ張り出しました。
――道具を捨てずに取っておいたのは、またやろうと思っていたからでしょうか?
そうですね。作ったり描いたりする仕事をもともとしたいと思っていたので、諦めきれない気持ちはどこか残っていたんだと思います。初めてやったときは何も見ずに彫ってうまくいかなかったのですが、インターネットのサイトで彫り方を見て学んでからやってみたら、いつのまにか楽しくて夢中になっていました。
その後作品を販売するようになるまでは、1か月も経たなかったですね(笑)。半年後にはハンドメイドのイベントに出店していました。
――すごいスピード感です!そこからプロの作家になるまではどのような道のりだったのでしょうか。
子どもが二人いるのですが、上の子が保育園に入ったタイミングで主人に背中を押してもらい、専業として活動するようになりました。
Instagramで発信を続けていくうちに国内だけでなく海外の雑貨屋さんからもお声がけいただけるようになって。でも一番の転機になったのは、手紙社さんの「紙博」にお誘いいただいたことですね。
――ご連絡がきたときはどんなお気持ちでしたか?
メッセージを何度も確認した後、「夢かな……?」って(笑)。以前から手紙社さんのことは知っていて、いつか一緒にお仕事をしてみたいなと思っていたので。
ただ、そんな風に憧れていた手紙社さんのファンの方に受け入れてもらえるかな、という怖さもあり、わくわくする気持ちと緊張が入り混じっているような感じでした。そのときの「紙博」は残念ながらこのご時世で実施できなかったのですが、その後も「月刊手紙舎」で、連載というかたちで出品しています。おかげさまで、手紙社さんとのつながりができてから新しくcotori cotoriの作品を「かわいい!」と言ってくださる方も増えました。
――着々と活動の幅を広げられていて素敵です。cotori cotoriさんの作品づくりのこだわりについてもお聞かせいただけますか?
はんこには、インクが付く黒い部分とインクが付かない白い部分があるので、どっちを黒にして、どっちを白にするか、というバランスをまず考えます。
個人的にはインクがべたっと付く黒い部分が多いはんこが好きで、それは意識しているかもしれませんね。
――それは作家さんならではの視点ですね!イラストのアイデアはどうやって浮かんでくるのでしょうか?
例えば子どもが、ふとかわいいポーズをとっているのを見て、「あっこれ彫りたい!」と心に留めたりとか、街や雑誌でかわいい服を着ている人を観察したり……。わざわざ探すというよりも、描きたいなと思うものが日常の中にありますね。
――「手彫り」というのもこだわりのひとつだと思うのですが、cotoricotoriさんにとって手仕事の魅力はどんなところにありますか?
同じデザインで作っても、絶対に同じものって作れないんですよ。同じ図案であっても、表情や形はひとつひとつ違うんですよね。
その世界にひとつしかないという特別感を味わってほしくて、手彫りでゴム版はんこを作っています。ただ葛藤もあり、ゴム版はんこをたくさんの方に届けるには、作る時間が足りなくて。
――子育てもされながらですもんね……!
そうですね。制作は子育ての中での楽しみでありつつも、子どもたちが保育園に行っている間が唯一作品を作れる時間なので。だからマスキングテープやシールなど、量産しやすいものも用意しておき、欲しいなと思ってくださる方に届けられるようにしています。
大事にひとつずつ作ることと、たくさんのひとに届けられること、それぞれを両立させながら活動を続けていきたいなと思っています。
-profile-
cotori cotori(コトリ コトリ) たけだゆうこさん
愛媛でオリジナルのゴム版はんこや紙雑貨を制作。女の子をモチーフにしたはんこは、コーヒーを飲んでいる様子や読書をする様子など、身近な風景を切り取ってリラックスできようなデザインを、一つひとつデザインナイフによる手彫りで作り上げている。
instagram:@cotoricotori_yuco
HP:cotoricotori-yuco.stores.jp
文=ひらいめぐみ・編集=山越栞