――今回はお散歩特集ということで、街歩きエッセイストのチヒロさんに、お散歩の楽しみ方やエピソードを教えてもらいたいです。まず、お散歩をするようになったのはいつからなんでしょうか?
お散歩自体は小さい頃から自然としていました。周りもそうなのとばかり思っていたのですが、友達と歩いているときに「ちょっとここの写真撮ってもいい?」と立ち止まったりすることは人一倍多いので、もしかしたら、そうやってお散歩の中で気になるものを見つける気質なのかもしれません。
ただ、意識するようになったのは、10年ほど前に夫が単身赴任で1年間長野県の松本にいたときでした。私もちょうど仕事を辞めていたので、1か月くらい滞在して、街をぶらぶら歩いていたんです。松本は今でこそ人気のエリアですが、当時はガイドブックを読んでみても「いいな」と思える場所に出合えなくて。そこで、まだあまり知られていない店や眺めのいいスポットを載せた手描きの地図を作って、松本のカフェなどで配布しました。
――今の「街歩きエッセイスト」の活動につながるきっかけがそこにあったのですね。
あとは、5年ほど前に体調を崩してしまって、歩くのもやっとみたいな時期があったんですね。そのときは近所しか行けなかったので、「その中でどうやって面白いことを発見するか」みたいなゲームを自分でやっていたんです。その頃の影響も大きいかもしれません。
-なるほど。チヒロさんは目の前にある状況を自分なりに楽しむことを大事にされているのですね。
そうですね。子供の頃からそうだった気がします。毎日って、割と淡々と過ぎていくじゃないですか。そんなにたくさん面白いことがあるわけじゃないけれど、その中で楽しいことや面白いことを見つけてやろう、みたいな気持ちがあったかもしれないですね。
――素敵です。では、ブログを初めたきっかけはなんだったのでしょう?
元々、自分が良いと思ったものを人にお勧めしたがりなんです。でも、子供の頃から趣味が合う友達をなかなか見つけられなくて。好きなアイドルとかもマニアックなところにいきがちなんです(笑)。なので、自分の愛を勝手に発信できる場が欲しくてはじめたのが最初でした。余計なおせっかいだとは思うんですけど、好きなお店や人のことを伝えたくなって、というのが一番強いですね。
――チヒロさんの思う、お散歩の魅力はどんなところにあるのでしょう?
日常がドラマになるところです。なにげなく歩いていて気になった喫茶店に入ったとするじゃないですか。そこで昭和のドラマみたいな場面に遭遇したりするんです。マスターと常連さんの会話がすごく面白かったり。初めて行った喫茶店のママに気に入ってもらえて、気づけば4時間ほどお話を聞いていたこともありました。だから、もちろん誰かとお散歩するのも楽しいのですが、私はひとりで自分のペースでお散歩することが多いですね。
――コロナ禍で、チヒロさんのお散歩ライフにも変化はあったのでしょうか?
変わりましたね。最近は近所しか行けないからこそ、自分の住む下町の歴史に興味が出てきました。昔は、歴史好きの父が色々と教えてくれても無関心だったんですよね。でも、いざ自分が住んでいる街の歴史を見てみようと思ったら、今とぜんぜん違ったり、地名のルーツが分かったりして。どこの街でも歴史はあるはずだから、それが分かるだけで街の見方が変わると思います。そうすると、慣れ親しんだ場所でも無限に楽しめるかもと思うようになりました。
――では、普段お散歩をあまりしない人が楽しめるコツなども教えていただきたいです。
正直、歩くだけなのは私もめんどうくさいんです(笑)。趣味が散歩っていうと、ただのんびりと歩くのが好きみたいに思われてしまうこともあるのですが、私の場合はひとつ行き先を決めて、その道のりで面白いところを見つける感じが好きで。楽しむコツは、急がないこと。目的を決めると、そこに早く行かなきゃみたいな気持ちになるじゃないですか。でも、時間があるお休みのなどに、いつもより少し遅めのペースで歩いてみると、見える景色が違うんです。
――たしかに移動の速さによって、同じ場所でも違った体験ができそうですね。普段は自転車や車で移動している場所もあえて歩いてみるとか。
そうなんです。あとはテーマを決めるのも楽しいですよ。「ちょっと変わった看板を見つけてみる」とか。個人的にはレトロな建物やタイルがすごく好きで。なんでもない建物の壁面とかを「格好いい!」とか言いながら写真におさめたりしてしまいます。それとちょっとしたコツは、スマホをお休みモードにすること。普段は何げなく手にとってしまうけれど、一旦離れて、気持ちが赴くままにお散歩するのもリフレッシュになると思います。
――ちなみに、お散歩の帰り道もヘトヘトにならずに楽しむにはどうしたらいいでしょうか?
帰り道は、楽しい思い出を反芻する時間だと思っています。歩きながらその日を振り返ったり、もう一軒近所のカフェに行って、楽しかった場所や面白い人がいたことをメモしたり。そういう風に心を整える時間も楽しいのかなと思いますよ。楽しかったライブの帰り道とかって、早く帰りたくなかったりもするじゃないですか。余韻を感じるというか。でも足は疲れちゃうので、履きやすいスニーカーを履くように心がけるだけでも結構違います。
――では最後に、チヒロさんの憧れるお散歩コースを教えてください!
地方の喫茶店やレトロな町並み、商店街が残っているところを歩きたいですね。あんまり下調べせずに、地元の人にお勧めのお菓子やお店を教えてもらって、できるだけその場の情報だけで歩く、みたいな。もちろん時間がない中で効率よく歩きたい日もあるけれど、そればかりじゃつまらないと思うんです。
だから自分のブログの文章も、何でもかんでも詳しく書きすぎないようにしていて。読んでくれた人がちょっと行きたくなるくらいの入り口でとどめておいて、「あとはそこに行ってからのお楽しみね」といったニュアンスを大事にしています。まずは近所の散歩から、自分の興味の赴くままに歩いてみると、新しい発見があるかもしれませんよ。
-profile-
街歩きエッセイスト チヒロ
浅草育ちの街歩きエッセイスト。東京下町を中心にノスタルジックな街や店を紹介するWebマガジン「かもめと街」をひとりで運営する。年間500軒の店めぐりでガイドブックに載らないような場所を渡り歩く。浅草の喫茶店にインタビューしたzineをBOOTHで販売中。
取材・文=山越栞