――今回の3PMmm…は「香り」特集なのですが、逆に「においを消す」こともすごい技術だと思って、「きえ~る」を開発した環境大善の皆さんにもお話を聞きたいと思いました。そもそも「きえ~る」は、どのようにして生まれたのでしょうか?
この事業が立ち上がったのは16年前なのですが、創業者で現会長の窪之内は、その前にホームセンターの店長をしていました。そこにある時、酪農家の方から「これを何とかして売ってくれないか」と、茶色の液体が持ち込まれたんです。それは、牛の尿を発酵培養させたものでした。
ここ北海道の道東は酪農が盛んで、人口よりも牛の数が多いくらいなのですが、当時牛の排泄物が公害として問題になっていたんです。土中に染み込んだ尿が付近の河川に流れ込み、最終的にはオホーツク海に流れ着いて海上汚染につながってしまう。それを解決するために、無害化する施設ができたのですが、その施設を維持するのにも費用がかかりますよね。公害の問題については解決されるけれど、それだけでは費用負担に見合わないと、酪農家さんたちも悩んでいたんです。
――そこで、ホームセンターの店長だった窪之内さんのところへ相談に来たんですね。
はい。実はその少し前に、ホームセンターに「ここで買った消臭剤が全然効かない」というクレームが来て困っていたところで。窪之内はあちこち展示会を回ったのですが、どの消臭剤も本当の意味でにおいを消すというより、上からいい香りを重ねるものばかりでした。
そこでふと、酪農家さんが持ってきたその液体のにおいを嗅いでみたところ不思議と無臭で、「もしかして?」と思い、ホームセンターのスタッフに各々自宅に持ち帰って、においが気になるものにかけてみてもらったそうです。すると驚くことに嫌なにおいが無くなったと。そこから「きえ~る」が商品として生まれました。
ただ、当初酪農家さんが持ってきた茶色の液体のままではかけたものに色素が移ってしまうので、途中からは特殊な技術で透明化に成功し、一気に商品が広まっていきました。
――使い道に困っていた素材が、消費者にとって便利な商品に生まれ変わったということですね。
はい。しかも、この液体は土壌改善にも効果があることが分かったんです。原料を聞くとマイナスなイメージを持つ人は多いのですが、最近は環境に配慮する思考が高まっているので、100%安心素材で人体や動物、地球に無害な「きえ~る」を応援してくれる消費者の方も増えてきました。
また、もともと処理に困っていたものを大きく価値をつけて循環できることから、弊社では「アップサイクル型循環システム」を提唱しています。酪農家さん、消費者、地球環境の間に「きえ~る」が入ることによって、みんなにとってよい循環を作っていく仕組みです。
商品のラインナップは室内用からペット用、介護用、車用、園芸用など、いろんな分野向けに用意しています。女性の方に人気なのは洗濯用の「きえ~る」。洗剤と一緒に入れるだけで嫌なにおいを消して、しかも柔軟剤などの良いにおいは残してくれるので、とても評判の良い商品です。
――嫌なにおいだけが消えるのもすごいですよね。でも、どうしてそんなことができるんでしょう?
それが、具体的なメカニズムはまだ解明中なんです。研究機関などに依頼して、消臭効果や植物の生長促進の効果があることは確実に分かっているのですが……。なので、社内で「土、水、空気研究所」という組織を作って、今も研究機関と一緒に分析しているところです。
――聞けば聞くほど、「きえ~る」が魔法の消臭液に思えてきますね。ちなみに、社員のみなさんも「きえ~る」を愛用していらっしゃるんですか?
はい。ヘビーユーザーも多いですよ。使っていくうちにそれぞれ独自の活用方法を見出していく面白さもありますね。ペットを室内で飼っている家庭では、犬や猫が舐めても安全なので、気兼ねせずソファやカーペットなどに吹きかけて消臭できる点が重宝します。
おやつに関することですと、車の中でお菓子を食べた後の食べこぼしなどによる気になるにおいも「きえ~る」を吹きかけて消すことができますよ。
-profile-
環境大善株式会社
北海道北見市にあるメーカー。ホームセンターの店長だった創業者が開発した消臭スプレー「きえ~る」がヒットして事業化。アップサイクルな商品作りで全国に人気を広げている。
環境大善公式オンラインショップ : store.kankyo-daizen.jp
取材・文=山越栞