2021.04.19

【STORY】パウンドケーキみたいな人

スナックミー

 「やほー、元気?」

「元気元気ー!ちゃんと聞こえてる?」

「うん!大丈夫そう」

 ビデオ通話ではあるが、親友のユミと久々の再会をはたした。世間では「オンライン飲み会」なるものが流行っていると知り、それならばカフェ巡りが好きな我々らしく「オンラインお茶」にアレンジするのもいいだろうということになったのだ。

 土曜日の昼下がり、それぞれにおやつと飲み物を用意して、液晶画面と向かい合う。何だか新鮮な感じがして、これもまたアリかもと思う。

「エリコは何を用意したの?」

「ネットで話題になってた紅茶をお取り寄せした!あとはいつものチョコクッキー。ユミは?」

「近所のコーヒー屋さんで豆を挽いてもらってきたから、今お湯沸かしてる。あとはパウンドケーキ」

「パウンドケーキ? 珍しいチョイスだね」

「なんかさ、お会計するときに店員のお兄さんに『もしよかったらパウンドケーキも一緒にいかがですか?』って言われて、つい買ってしまったんだよね」

「お兄さんがイケメンでキュンとしたとか?」

「いや、マスクしてたから顔はわかんなかったけど、たしかにキュンとはした。ただしパウンドケーキに」

「パウンドケーキに…笑」

「なんかさ、パウンドケーキみたいな人が好きかもな、私。って思ったんだよね」

「え? なにそれ」

 ユミとは大学時代からの仲だが、当時から奇天烈な発言をする子で、よくも悪くも人を選ぶタイプの性格だ。

でも、私はそんなユミとなんとなく馬が合い、今ではいちばん身近な女友達になっている。

「パウンドケーキってさ、自分では意識して食べようとしなくない? 手土産にもらったりとか、ちょっとしたお茶菓子に出てきたりとか、今日みたいにお店で勧められたりすることが多い気がする」

「言われてみれば『パウンドケーキ食べたい!』と思うことはあんまりないかも」

「あとさ、子どものころから親しんでたおやつって感じでもないのに、いつの間にか『あぁ、パウンドケーキね』みたいな存在になってるなぁと」

「あー、たしかに」

「でさ、ちょっとだけ特別な感じもあるじゃん。『今日はおやつにパウンドケーキがある!』みたいな。普段そんなに食べたいって思うことないのに、そこにあるとテンションが上がる」

「なるほど」

「そんな人と、私は一緒にいたいと思うわけですよ」

「わかるようなわからないような…」

「というわけで、今日のおやつはパウンドケーキなのです。あ、今コーヒー淹れてくるね。ちょっとまってて」

そう言って、ユミは一時的に画面上から消えていった。その間、私は「パウンドケーキみたいな人」について考えを巡らせる。

たしかに結構いいかもしれない。
今度パウンドケーキに出逢うのは、いつだろうか。

文=山越栞

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