
「やほー、元気?」
「元気元気ー!ちゃんと聞こえてる?」
「うん!大丈夫そう」
ビデオ通話ではあるが、親友のユミと久々の再会をはたした。世間では「オンライン飲み会」なるものが流行っていると知り、それならばカフェ巡りが好きな我々らしく「オンラインお茶」にアレンジするのもいいだろうということになったのだ。
土曜日の昼下がり、それぞれにおやつと飲み物を用意して、液晶画面と向かい合う。何だか新鮮な感じがして、これもまたアリかもと思う。
「エリコは何を用意したの?」
「ネットで話題になってた紅茶をお取り寄せした!あとはいつものチョコクッキー。ユミは?」
「近所のコーヒー屋さんで豆を挽いてもらってきたから、今お湯沸かしてる。あとはパウンドケーキ」
「パウンドケーキ? 珍しいチョイスだね」
「なんかさ、お会計するときに店員のお兄さんに『もしよかったらパウンドケーキも一緒にいかがですか?』って言われて、つい買ってしまったんだよね」
「お兄さんがイケメンでキュンとしたとか?」
「いや、マスクしてたから顔はわかんなかったけど、たしかにキュンとはした。ただしパウンドケーキに」
「パウンドケーキに…笑」
「なんかさ、パウンドケーキみたいな人が好きかもな、私。って思ったんだよね」
「え? なにそれ」
ユミとは大学時代からの仲だが、当時から奇天烈な発言をする子で、よくも悪くも人を選ぶタイプの性格だ。
でも、私はそんなユミとなんとなく馬が合い、今ではいちばん身近な女友達になっている。
「パウンドケーキってさ、自分では意識して食べようとしなくない? 手土産にもらったりとか、ちょっとしたお茶菓子に出てきたりとか、今日みたいにお店で勧められたりすることが多い気がする」
「言われてみれば『パウンドケーキ食べたい!』と思うことはあんまりないかも」
「あとさ、子どものころから親しんでたおやつって感じでもないのに、いつの間にか『あぁ、パウンドケーキね』みたいな存在になってるなぁと」
「あー、たしかに」
「でさ、ちょっとだけ特別な感じもあるじゃん。『今日はおやつにパウンドケーキがある!』みたいな。普段そんなに食べたいって思うことないのに、そこにあるとテンションが上がる」
「なるほど」
「そんな人と、私は一緒にいたいと思うわけですよ」
「わかるようなわからないような…」
「というわけで、今日のおやつはパウンドケーキなのです。あ、今コーヒー淹れてくるね。ちょっとまってて」
そう言って、ユミは一時的に画面上から消えていった。その間、私は「パウンドケーキみたいな人」について考えを巡らせる。
たしかに結構いいかもしれない。
今度パウンドケーキに出逢うのは、いつだろうか。
文=山越栞