
毎朝の時間に、「ポットでお湯を沸かす」という習慣がかえってきた。
これはちょうど、目覚めたときに「まだ布団でぬくぬくしていたい」と思いはじめる時期とほぼ同じ。
そういう、日々のなんてことない決まりごとみたいなものが、私にとって冬を「生活してるなあ」とひときわ思う季節にさせているのかもしれない。
夏の暑さにどんどん弱くなるのと引き換えに、最近は「冬も悪くないな」と思うようになってきた。
そんな冬は、こっくりと重たいものが食べたくなる。
きめ細かいフォームをかぶったホットラテとか、とろとろに煮込んだビーフシチューとか、ちょっと火傷しながら食べるグラタンなんかもいい。
そして小腹のおともといえば、これからの季節はもっぱらチョコレートだ。
夏の間は、バッグに入れておくだけでどうしても溶けてしまうから、心配せずに持ち歩ける冬は、チョコレート好きに拍車がかかる。
それにあるとき「チョコレートを食べると瞬間的な幸福度が上がる」なんてことを聞いてから、さらに特別なおやつになった。
仕事でちょっと嫌なことがあっても、それを口実に「チョコレート食べよ」と思うだけで、小さく報われる。
私なりの、チョコレートを食べるときのお約束、それは「限界まで噛まずに口の中で溶かす」こと。
チョコレートを口の中で溶かすなんて当たり前のことに思う人もいるかもしれないけれど、これがチョコレート好きにとってはすごく難しい。
ついパクパクかじって次々と口に運んでしまう。
だからたぶん、私の長いチョコレート人生において、チョコレートが口の中で完全に溶け切るまで噛まずに待てたことなんて、数えるほどしかないはずだ。
って考えてみると、好きなものをゆっくりじっくり味わって、長く楽しむのって難しいなぁと思う。
好きなのに我慢しなくちゃいけないならば、すぐになくなってしまうと分かっていても、むしゃむしゃ貪ったほうがしあわせなのかな。
もしかしたら、チョコレートの食べ方で相手の性格が見抜けたりもするんじゃないだろうか。
それなら、いつか誰かに聞いてみたい。
「チョコレート、どうやって食べますか?」
文=山越栞