
ゲストといっしょにおやつを囲んでフリートークを楽しむ企画。おやつに関係ある話も、全く関係ない話も飛び交います。
おやつを食べているときって、そんなものなんじゃないだろうか。
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-“人の日常に変化を与えるお仕事”ということで、今回は美容師の中村さんにお話を伺いたいです。
経営されている美容室『らふる』ですが、店名はどういった由来なのでしょうか?
『らふる』は「笑い声がいっぱい」という意味で、お客さんがご機嫌でいてくれるにはどうしたらいいかなと思ってつけたんです。
実は僕自身、美容院って1、2時間じっとしていなきゃいけないから苦手で。でも、いいものや心地よいものに囲まれた空間なら、その退屈さが少し軽減されるんじゃないかなと。

だからお店に置くものも一つひとつ自分で使ってみたりして確かめながら、いいと思ったものだけを選んでいます。
例えば、うちのタオルは全て『イケウチオーガニック』さんのものを使っています。あそこにあるスピーカーも、らふるらしさを体現しているもので。
美しさはもちろん、各パーツがモジュール化されており、取り外して交換することで環境負荷を減らすサステナビリティを実現しているんです。

-お客さんの中には、「自分自身もいいもの・ことを選ぶようになった」「もの選びで妥協しなくなった」という方も少なくないと聞きました。
髪に関することだけではなく、そんな風にお客さんのライフスタイルにも変化をもたらしているんですね。
お客さんの生活や視点が静かに変化して、らふるに通う前よりも楽しいものになってくれればいいなとは考えているので、嬉しいですね。
いいものを置くことにこだわるのは、お客さんが興味を持ってくれたものから会話の糸口を見い出したいといった意図もあります。

美容院って「今日はこの後どこか行くんですか?」みたいな、なんとなく間を埋めようとする会話もあるじゃないですか。
そんなことよりも、どんなものが好きなのかとか、どういう生き方をしている人なのか、という話の方が僕は興味がありますね。
無理やり間を埋めようとする方がかえって失礼かなと思うし。
だから、「美容院ではあまり話さない派」と言っていたお客さんが、らふるでは自然体で話してくれることもあります。

とはいえ、直接僕たちがお客さんの気分を上げるっていう感じでもなくて。スタッフとも日ごろ話しているのは、「自分で自分をごきげんにできる人」っていいよねということ。
僕たちはヘアスタイルのメンテナンスをしながら対話をしたりして、お客さんが自分で自分をごきげんにするためのきっかけとして、この場所を
使ってもらえたらいいなと思っています。
-らふるさんに通っていたら心持ちまで変わりそうです…!
お客さんの中には「ちょっと気分を変えたいです」というご要望もあるかと思うのですが、そのときはお客さんとどう向き合われていますか?
その方がなぜ気分転換したいのかを、自然とキャッチしているかもしれませんね。退屈だからなのか、嫌なことがあったらからなのか、見返したくてイメチェンしたいのか。

-では、どちらかというとふわっとしたオーダーが多いのでしょうか?
ほとんどそうですね。中には写真を見せてくれて「これにしてください」と言う方ももちろんいますが、その場合はこの写真(モデル)そのものを目指すというよりも、「あなたにあったこれっぽい感じにしますね」とお伝えするようにしています。
誰しも自分以外になることはできないし、せっかくならその人らしさを伸ばしたいので。
-美容院って「今よりかっこよくなりたい、可愛くなりたい」と、前提に自己否定要素があるから向かう場所だと思っていたのですが、そう言ってもらえると「ありのままの自分でもいいのかな」と思える気がしてきました。
そうですね。特にらふるを開業したばかりのころは「外国人風」のヘアスタイルが人気になりはじめていて、海外に対して憧れの強い日本人がすごく多いことに違和感を抱いていました。
だけど裏を返せば、日本に憧れる海外の人もいるはずですよね。
そこで、日本人だからこそ似合うヘアスタイルを提案するのもいいよね、と。
お店に和の要素を取り入れているのも、日本らしさのある美容室があっても面白いんじゃないかなと思ったからです。この外観なのでお寿司屋さんに間違われることもあるんですけどね(笑)。

また、ヘアスタイルを作る上での持論なんですが、「持ち主に似合わない髪質では生まれてこない」と思っているんです。
その人らしくかっこよく、可愛く、綺麗でいられればいいんじゃないかな、と。
さっきの話に戻すと、海外っぽい髪型をしても、我々が日本人である時点で海外の人の方が上ってことになっちゃう。
それでは負けてることになってしまいます。
でも、あなたはあなたらしくいれば一人勝ちだよ、って。
コンプレックスを自分らしさと捉え、自信を持つことが、その人をいちばん魅力的にしてくれるんじゃないかなと思います。
取材・文=ひらいめぐみ 編集=山越栞