2021.01.05

【STORY】ピスタチオラブレター

スナックミー

 前略、そちらは寒くはないですか?下界はそろそろ冬も本番です。

 
 あなたがいなくなってから、初めて一人で迎えるこの季節です。暇を持て余しているので、柄にもなく手紙を書いてみました。「暇だからなんて、失礼しちゃうわ」と思うかもしれないですね。でも、あなただってきっと暇でしょう?それとも天の上には「暇」なんて概念すらないのでしょうか。


 ところで、猫のミーちゃんに毎年あなたが着せてあげていた手編みのベスト、あれはどこにしまってあるんでしょう。もしもこの手紙があなたに届いたのなら、そっと私の見つけやすいところに出しておいてくださいね。あなたの声は聞けずとも、そんな風に、どこかで繋がっていればけっこうですから。


 こういうとき「俺ももうすぐそちらに逝くからな」なんて言うとロマンチックなのでしょうが、あいにくこちらは元気にやってしまっているのです。あなたの代わりに長々と生きてやります。


 昨日は慎二の嫁さんが訪ねてきました。寂しくてボケていやしないかと不安になったのかもしれませんね。こういうときに弱るのは男のほうだと相場が決まっているのです。「お義父さんのお口に合うとよいのですが…」といって、緑色のショートケーキを箱から出されたときは、流石にどきりとしました。愉快犯的な毒殺事件の被害者になった心地でした。

しかしどうやら聞いてみると、これは「ピスタチオ」という材料をクリームに混ぜ込んだから緑色ということでした。よく見るとケーキはクリスマスのリースを模っています。なるほど本物のリースも緑色ですものね。それに、食べてみるとまぁ、なかなか旨いのです。

慎二はいい嫁をもらいましたね。あなたにも食べさせたかったです。ピスタチオのケーキ。せめて、仏壇に供えてから食べたらよかったね。


 そしたらさっき、酒のつまみでも買おうと近くのコンビニエンスストアに行ったら見つけたのです。「ピスタチオ」と書かれてはいるが、自分が昨日食べた緑色のクリームとは似ても似つかない、しらちゃけた殻に覆われた固い木の実です。

 これは、どうやって食べたらいいのだろうね?そんなことを手紙に書くな?
 まぁいいじゃないの。今はそんなことだって気軽に話せないところにいるあなたがいけないのです。


 嘘か本当か、夏目漱石が「月が綺麗ですね」と言ったあれも、もともとは遠くの想い人に電報を打つ際の言葉、といった背景があると聞いたことがあります。それを思うと、届くかわからないあなたへの手紙にわざわざ「ピスタチオというものがありましてね」と綴る私もまぁまぁでしょう?


 今年の冬は、よりいっそう寒くなる気がしているよ。


草々

文=山越栞

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