2022.04.05

【STORY】菓子店 アイボリー 第一話 そんなもん

snaq me

他者の闇に、たまに、辛いくらいに気づいてしまう。

 ふとした会話のなかで語られる些細な出来事、ことばの選び方、SNSでの深夜のつぶやき、その他とりまく雰囲気もろもろ。
 そういう断片を無意識に拾い集めて、勝手に苦悩を想像してしまう。
 勘にも似たそれらは、相手のことを大切に思えば思うほど精度が上がって、だいたい的中してしまうから、かなしい。

 言葉を発せない犬みたいだな、とたまに思う。
 「わかる気がする」なんて突然話しかけるわけにはいかないから、まるでしっぽを振るみたいに、ただニコニコしていることが多い。

 だけどたまに、ふと吐露してくれる人がいる。たぶん誰にでも話すわけではないことを、「今ならいいかな」と。そういう瞬間が、私はけっこう好き。

 理由なんてそんなもんなのだ。ふらりと立ち寄れる小さなお店をつくりたいと思ったのは。

「菓子店アイボリー、本日OPEN」

店先に黒板を置いて、エプロンの紐をきちんと結びなおした。

−続く


文・編集=山越栞

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