「いらっしゃいませ!」
ドアにぶら下げたベルがカランと鳴ったその時、反射的にそんな言葉が出て、少し時差があってから、自分で自分に驚いてしまった。
今日という日に向けてさんざん開店準備をしてきたくせに、「いらっしゃいませ」というありきたりな一言で、やっと「そうか、本当にお店をはじめたんだな」と妙な実感が湧く。
小さなお菓子屋さんをつくる決心をしたとき、周りの人たちに対して大っぴらにはそのことを伝えなかった理由は、「びっくりさせたい」という気持ちが半分、「ささやかにはじめたい」という気持ちが半分といったところ。
うまく説明できないのだけれど、みんなに開店初日に駆けつけてもらうことも、「本当にやっていけるの?」と心配をしてもらうことも、なんだか違うような気がした。
それより、私のことなど知らない誰かに、ふと散歩の途中で見つけてもらえたとしたら、果たしてその人はお店の中へと足を踏み入れたいと思ってくれるだろうか、と、そっちの方が気になってしまったのだ。
「ここ、いつからですか?」
記念すべき最初のお客様は、私と同年代のように見える、小柄な女のひとだった。
−続く
文・編集=山越栞
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「ここ、いつからですか?」記念すべき最初のお客様は、私と同年代のように見える、小柄な女のひとだった。「今日からなんです」さらりと言ってみたもののプレッシャーにならないかと不安になったけれど、「へぇ」と小さく微笑んだだけで、その人は棚に並ぶ焼き菓子に視線を移していった。
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