2021.02.26

【オヤツヲタベツツ】喫茶ランドリー 田中元子さん

スナックミー


山越:
ここのところ、「読者にとって心地よいメディアとの関係性ってなんだろう」とずっと考えているんです。そこで、コミュニティづくりの文脈で語られることが多い「喫茶ランドリー」の本質は、誰にとっても心地よい空間づくりにあるんじゃないかなと思っていて。

田中さん(以下、田中):うれしい。「喫茶ランドリー」で作りたかったのは、「自家製の公共」なんです。ここに来た人は多分、直感で「気取らなくていい場所なんだ」と、ただの喫茶でもランドリーでもないことを感じ取ってくれる。

言語化しないコミュニケーションというか。それが楽しさだと思っています。

山越:実は、あえて全部を言語化しないことは、『3PMmm…』でも気をつけていて。「何でおやつのサービスでこんな冊子をやっているの?」と聞かれることもあるのですが(笑)

コミュニケーションツールとして「ちょっとした不可解さ」を大事にしながら、ユーザーさんにとってのおやつ時間をどう演出できるかなって。バランスを見つつ、「上質なこと」と「親近感」の両立をやりたいです。うまく言えないんですけど…。

田中:私もどこかに「不可解さ」を残しておくことは大事だと思う。そうすると人は、ある程度まで推測するしかないじゃないですか。「○○かも?」くらいのモヤモヤ感は、人が目を離せなくなったり興味を持つとっかかりになるしね。

山越:余白を持たせる、みたいなことでしょうか。

田中:うんうん。余白って、設計しないとできないもので。例えば、本当に質の良い器って、誰かの焼きかけで終わったりしないじゃない?「余白の美」なんて言われるものは、むしろ計算しつくされた上で成り立っている。

喫茶ランドリーもそこは意識していて、「あえて作りかけにしてるんですか?余白ですね!」なんて言われると、「勝手に誤解してればいいさ」と思っちゃう。作りかけを余白と解釈するのは違うんですよね。

山越:確かに、そういう美学ありきの調整ってすごく絶妙ですよね…。田中さんはどんな風にそこを判断しているんでしょうか?

田中:こればっかりは、古いラジオのチューニングみたいなものかなぁ。聴きたい番組の周波数に合わせるために、自分で調整して「ザザー」っていうノイズを無くしていく感じ。

だから、ウチもけっこう「お客さん、これくらいならくつろいでくれてるな、いいぞ!」「でも、ここまで変なもの置いちゃうのはやりすぎだよね…」って、様子を見ながら自制していってる感じです。

山越:なるほど…。そういえば以前、田中さんは「喫茶ランドリーがみんなの意向でお好み焼やさんになるならOK」とお話しされていたと思うのですが、そうやって委ねることと、絶対に自分でチューニングしたいことの線引についても伺いたいです。

田中:そうだな、私は空間のことを「器」だと思っていて。私自身が中身をつくることは、喫茶ランドリーではやりたくないんです。その分、良質な器であることを維持するのが、私の大事な役目。

「質がいい」という定義にもいろいろあるけれど、喫茶ランドリーの器は、人の「言語化できない喜び」みたいなものを生みたいんですよね。

山越:「言語化できない」というのは、喫茶ランドリーの重要な観点なんですね。

田中:こどもたちにとってはおもちゃ屋さん、女子にとってはコスメショップとかって、何か買いたいわけじゃなくても行ったりするじゃないですか。「かわいいー」って言うだけでさ(笑)

たいして目的にもなっていないけど、曖昧なものや状況に触れて癒やされる、あの感じ。それが、喫茶ランドリーの目指すところかな。ここには、そんな風にワチャワチャして過ごす「言語化できない幸せ」があったらいいなと思うんです。

山越:素敵です。そういった目標を叶えるために、田中さんが大切にしているものってなんでしょう…?

田中:大事なのは「3つの器」だとよく言っていて、ひとつ目はハードウェアで、2つ目はソフトウェア。要するにこのふたつは「モノ・コト」と言われるものです。

例えばディスコをつくったときに、場所はハード、「踊ってもいい」というのはソフト。でも、誰もそこで踊り始めないと、機能しないじゃないですか。そこで「誰が最初に踊り始めるか」というのが大事なんです。

山越:それも「器」なんですね!

田中:そう。「関わりの器」です。ひとり目の踊り方って結構大事で、その人のグルーヴ感とかリズムが2人目3人目を定義付けていくじゃないですか。「この人に合わせるにはこんなかんじ」って。

で、3人くらいまで出てきたらみんなどんどん踊り始めるから、その頃にはひとり目は抜けていい。その人の残したグルーヴ感がどんどんアレンジされて、みんなが自分らしく踊っていく。

私はそういうことをやらなきゃいけない立場だと思っています。それに、ひとり目が抜けたときに、そこが空っぽのディスコになってることは嫌だから、「アイツはあんな風に踊ってたな」「ちょっとアレンジしても許してくれるだろうな」という安心感は、人間同士の「関わり」でつくるものですよね。

山越:すごくしっくりきました…。私たちも、コンテンツをつくる立場としての読者との関わりは大切にしたくて。冊子だと「提供する側とされる側」という一方的な関係性になりがちなのが、実はあまり好きではないんです。

でも、まずは編集部が「うまく踊る」を意識するのって大切ですね。自分たちが楽しいと感じることを『3PMmm…』に還元する、という意思は忘れずにいたいと思いました。

田中:なんか、この冊子には愛を感じますよ。あれだ、学級新聞とか、壁新聞を作る感覚と似てるよね。

山越:そうかもしれないです。しかも、『3PMmm…』の場合は幸運なことに、届けたい人(ユーザーさん)に確実に届くんです。でも、ユーザーさん個々に冊子との付き合い方がある中で、巻き込みやすい層のユーザーさんだけとコミュニケーションを取っていくことはどうなんだろうって。

ユーザーさんとの交流は大切にしたい一方で、それをやりたい人なのか、やりたいけど一歩踏み出せていないのか、そもそも必要ないタイプなのか、ベストな距離感って人それぞれにあるはずで。

田中:ウチもそう。「みんなおいでよ」って言ったところで、本当にみんなが来るわけじゃない。

でも、夜になって明かりが灯って、そういう街の風景としてここを好ましく見続けてくれる人の存在も、ウチとしては大事なんです。

山越:どんな形であれ、その人が選んだ距離感を肯定する空気感…。

田中:そう。コミュニティって、内と外がはっきり分かれているほうが、内側の人たちは楽しいんですよ。内側の人しかわからない言葉で話せるし、仲間感があるから。

それは分かっているんだけど、ここではそうじゃないことに挑戦したかったの。取りこぼしをなくすことはできないけど、なくなったらいいなと思うし、努力は続けたいなって。

だから「喫茶ランドリー」は、それぞれの空間の質がスペースごとに微妙に違うんです。どんな風に過ごすのかを選んでもらえるようにいろんな距離の間口を用意してるんですね。

山越:わぁ……そういうの、冊子でもできるようにしたいです……。

田中:少年ジャンプとかが近いかもですね。本編の漫画の部分はプロの漫画家さんが書いていて読者は介在できないけど、誌面の横枠のところに「次回、どうなる?!」と書いてあるから自分以外にも楽しみにしている人がいると思えたり、もっとめくっていくと読者コーナーがあって、そのあたりには編集部の語りがあって、「だいぶ距離が縮まってきたぞ」と感じていたら、最後のほうには送られてきた読者の声をダイレクトに載せていたりして。

山越:たしかに。そのグラデーションが「上質さ」と「親近感」の両立になっていますね。

田中:多分、「いつかまざりたい」と思って見つめ続けている存在に、悪い気しないでおくことが大事なんだよ。いつも同じ間口を用意しておくことは、「いつか入ろう」という人にとっては安心できると思う。どんどんそこが進化してしまうと、「今からじゃ入れない」と思ってしまうから。

山越:丁度いい距離感のバリエーションをいつも用意しておく、というか。

田中:内輪感を出さないのに、近い距離で話している気がする、相反したことが可能なのはメディアならではですよ。いろんなことしてみたらいいんじゃないかな。たまに不良な号つくってみたりさ(笑)人間らしくいてください。

山越:そうですね!やっちゃおうと思います。


-profile-
田中 元子
株式会社グランドレベル代表取締役社長。独学で建築を学び、ライター・建築コミュニケーターとして、建築の専門分野と一般の人々をつなぐメディアづくりを行ってきた。2016年に「1階づくりはまちづくり」をモットーとした株式会社グランドレベルを設立。2018年に理想の1階のプロトタイプとして「まちの家事室」付きの喫茶店「喫茶ランドリー」をオープン。

喫茶ランドリー 両国・森下本店
東京都墨田区千歳2-6-9 イマケンビル1階
http://kissalaundry.com/

取材・文=山越栞

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