
りんごの木のしたにすむ、おじいさんがおりました。
おじいさんはりんごがだいすき。
きせつがやってくると、りんごの木はまっかな実をたくさんつけて、おじいさんをよろこばせてくれるのでした。
しかしあるとき、おじいさんはかんがえました。
「もっとおいしいりんごがあるんじゃなかろうか、それをしらないままに、わしはしんでいきたくないぞよ」
すると、どうでしょう。
どこからともなく、ようせいがやってきて
「それでは、もっとすてきなりんごをさがす旅におつれしましょう!」
ようせいがチチンプイプイとまほうをかけると、まるで砂嵐のように、あたりのけしきはあっというまにふきとんでしまいました。

あわててかおを覆ったおじいさんがつぎに目をあけたとき、そこはしらないばしょにかわっていました。
ふと見上げると、みたこともないようなりんごの大木の下にいたのです。
木には、たいそうりっぱでおおきなりんごが実っていましたが、枝がたかくて、おじいさんがいくらせのびをしても、ジャンプをしてもとどきません。
そうこうしているうちに、幸運なことにりんごがひとつ、おじいさんの足元にポトリ。
「ありゃ、おちたしょうげきで潰れてしまっているじゃないか。いくらいいりんごでも、おいしくたべられなきゃ、意味がないよ」
するとまた、どこからともなくようせいがあらわれました。
「では、こちらはどうでしょう?チチンプイプイ!」
砂嵐がふたたびおちつくと、こんどはりんごの森につきました。
「おお、りんごの木がたくさんだ!このなかで、いちばんおいしいりんごをさがすわい」
おじいさんはそれからみっかみばん、りんごをたべてたべてたべつづけました。
よっかめのばんになって、おじいさんはふと、つぶやきます。
「たくさんありすぎて、どれがいいのかわからなくなってしまった。
あのころの、まっかなりんごの実をもうたべられずに、わしはしんでいきたくないぞよ」

するとようせいがやってきて、
「チチンプイプイ!」
おじいさんが目をあけると、
「おかえりなさい」
ようせいのこえがどこかでした気がするのですが、そこには慣れしたしんだ、りんごの木があるだけでした。
文=山越栞