2021.08.02

月曜日の朝に、言葉をひとさじ。|8月2日

snaq me

僕はいったいどうすればいいのだろう?
でもどうすればいいのかは僕にはわかっていた。
とにかく待っていればいいのだ。
何かがやってくるのを待てばいいのだ。”

村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』


みなさんはバッターボックスに立ったこと、ありますか?

隠喩ではなく、目の前にピッチャーが構えている本当のバッターボックスです。

どんな球が飛んでくるんだろう。変化球かな。ここはあえてストレートだろうか。二塁にランナーがいるから打たせて捕るつもりかもしれない。

実際にバッターボックスに立つと、冷静な気持ちと、結果を出したいという気持ちが入り混じっていたと思います。

野球部に所属していた高校生の頃、初心者で唯一の女子部員だったわたしは、ごく稀に練習試合で打席を立たせてもらえることがありました。一年前まではゴロもまともに捕れなかった人間です。練習試合に出られるだけありがたいことでした。

見逃し三振だけはしないぞ。ぜったいに打てなくてもバットは振るんだ、と意気込み、空を大きく切ります。

ところがボールがバットに当たる音は響きません。審判が三振を告げ、とぼとぼベンチへ戻りました。

何でみんなみたいにカキーン!って打てないんだろう。フライの落下地点が見極められるようになったり、ルールも少しずつ覚えてきたのに、どうしてもバッティングだけはうまくなりません。

悩みながら練習に参加しているある日、部長のTくんがわたしに向かってこう言いました。

「ひらいさん。待ってたらボールは来るから」

最初はどういう意味なんだろうと、ちゃんと理解するのに時間がかかります。

だって、ボールはすごいスピードで飛んできて、待ってる時間なんてないから。

だけど、たしかにわたしはいつもボールを自分から迎え入れるように、早いタイミングでバットを振ってしまっていたことに気づきます。

“待ってたらボールは来る”。

この言葉を教えてもらってから、少しずつ前にボールを送れるようになっていきました。

現代において「行動を起こすこと」は、賞賛されるべき行為というイメージがあります。

一方、「待つこと」は「何もしないこと」と混同されがちです。

だけど、果物の実がなり始めた時より熟した時の方がおいしいように、「行動すること」と「待つこと」は、本当はセットなのかもしれません。

無理をしない程度に小さな行動を続けること。まだ自分の身の丈に合っていないなと思うことは、少し待ってみること。

打席にさえ立っていれば、ボールはちゃんとやってきますからね。

さて、今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

とはいえ、ボールを待つのって意外と難しいんですよね。久しぶりにバッティングセンターに行きたくなりました。

文=ひらいめぐみ


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