“みんなが嫌うものが好きでも それでもいいのよ
みんなが好きなものが好きでも それでもいいのよ”
–星野源『日常』
夏がくると、毎年読み返したくなる本があります。
それは、佐藤多佳子さんの『黄色い目の魚』です。
佐藤多佳子さんに著書に実は『サマータイム』という、まさに夏の時期を描いた小説があるのですが、そして『黄色い目の魚』は夏らしいシーンが多かったかどうか記憶も定かではないのですが、思い出すのはいつもこの季節なんですよね。
主人公の二人が通う高校が海辺にあるからかもしれません。
あらすじを説明するのが驚くほど下手なので気になる方はぜひネットで調べてみてほしいのですが、一言で言うと、絵を見るのが好きな女の子と絵を描くのが好きな男の子のお話です。
この本を読んだとき、わたしもちょうど高校生でした。
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何となくやりたいことはあるけれど、この先変わるかもしれない。まだろくろの上でごにょごにょと未来を回していた年頃です。
それでも、周りにはもうゴールを見据えて成形している同級生もいたんですよね。弁護士、国家公務員、お医者さん……。
自分自身に夢がないわけではなかったですが、得意な科目に極端な偏りがあったし、他にやりたいこともないから、という消極的なものだった気がします。
そんな時に『黄色い目の魚』を読みました。
主人公のひとりであるみのりは、イラストレーターの叔父、通ちゃんにだけ心を許し、絵を見るのが好きな女の子です。
みのりは通ちゃんの大学時代の先輩である渡辺さんがやっているギャラリーに行ったとき、絵は描けなくても絵に関わる仕事はできるのかもしれない、と気づきます。
そこでギャラリーのオーナーになるのって大変?と聞いたみのりに対し、渡辺さんは彼女にこんな一言をかけました。
「描くのも才能だけど、いい絵をわかるのも才能だよ」
例えば「絵」が好きで、絵に関する仕事がしたいと思ったら、当時のわたしは「絵を描く」しか道がないと思っていました。
いえ、正確に言うと、「絵を描く」以外は挫折した道という感覚が一番近かったかもしれません。
だけど、「いい絵をわかるのも才能だ」という言葉は、つまり「いい絵を見抜くということにも絵を描くことと同じように才能が必要だ」ということ。
どちらも、誰にでもできるわけではないんだと気づきました。
—
大勢が憧れる仕事だけが仕事ではないこと。本当に好きなことならやってみてもいいこと。
「絵」ひとつとっても、いろいろな角度から見ると、見る方向によっては出っ張っていたり、ころんと丸い形だったりします。
つい忘れてしまいがちなことですが、周りを気にせず、自分の気持ちを大切にしていきましょう。
最後どんな形になっても、焼き上げたらきっと自分の気にいる器になっているはずです。
さて、今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
今回詳しくご紹介しなかった『サマータイム』も、とっても好きな本のひとつです。でもこうやって読み返したい本が増えていきながら新しく読みたい本も増えていき、積ん読が永遠に増えていくんだろうなと思い、遠い目をしてしまいました。8月の休日のどこか一日は、本を読む日にしようかな。
文=ひらいめぐみ
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